山本直樹

山本直樹展「touka」2018/10/28まで


私の恩師であり、敬愛する作家である。

出会った頃の彼は、学生の私にもわかるほど、とても純粋でまっすぐで、それゆえに『ガラスのハート』とすら言われていた。50を過ぎてもスレもせずに、時に生徒と変わらない目線で目を輝かせる彼を見て、こんな人がいるのかと驚いた。必死に立ち続けるその姿はまるでアリクイ。こんなことを言えば、怒られるか、笑われるかだが、子アリクイが必死の威嚇をしながら「僕は大人だ!」と主張しているように見えて仕方がなかった。人が人を利用しあい、微笑みの裏に企みを隠すような世の中で、こんなにもありのままで、あっけらかんと笑ったのは、久しぶりだった。ホワイトボードに油性ペンで携帯番号を書いては、ギャーギャーと騒ぎ、かと思えば「格好がつかない」とハンバーガーを食べながら人生相談をされ、壁にぶつかり、パセリに目を輝かせ、見ていて飽きない人だった。

 数年の時が経ち、彼も私も変わった気がする。昔から他人に期待せず、偽りの自分に固執し、どこか諦め見下していた私は、力を抜いて、素直に物事に向き合おうと思うようになった。常にオープンで、分かりやす過ぎた彼の表情は以前よりも思慮深そうで、大人と言わずとも、大人だとわかる。

柔らかく穏やかで以前から変わらない素直さに、少し陰りが混じったことで言葉に深みが増した。少しミステリアスな物腰に包まれた彼は、以前よりも彼本来の持ち味が生かされているように思う。(生徒が師に、何を評価する、という話だが。)


そんな山本直樹先生の作品は、まるで彼の人間性を表しているようで、繊細に丁寧に、こつり、こつり、と真っ白な砂糖を積み上げ、町や社会を見る。観客もまた、彼と同じく心静かに賽の河原で小石を積むように、壊れやすい角砂糖を積む。居合わせた観客同士が、自分の知る角度からそれぞれの社会事情の裏側やその場の人だけが知る事件の断片について語る。儚く軽やかな中に、街の風や人の波を垣間みる。



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